

アール・ド・ヴィーヴル展「響きあうアート」では、作品展示の関連企画として、
2026年3月13日、3つのトークセッションが行われました。
1つ目はアールドヴィーヴルのメンバーたちとクローズドで行ったトーク。
プライバシーや心理的安全性を保ちつつ、アールの経緯や就労に向けての考えなどを元利用者さんも交えて行ったトークです。
2つめは世界的に活躍している現代アーティストのタカクラカズキさん、平山匠さん、今回行われた現代アートとアールのコラボ企画のプロデューサー吉田理穂さん、そして、中津川アートディレクターが登壇しました。
現代アートとアール作品のコラボレーションで現代アーティストの皆さんが感じたことを共有してくださり、
"福祉の価値だけに回収されてしまう、障害がある人たちの表現に対する危惧"といったテーマについても、率直な対話が交わされました。
3つめは、アール・ド・ヴィーヴル主催の公開トーク。中津川アートディレクター、萩原理事長、小田原加藤市長、田口ランディさんの対話。
俯瞰した眼差しで社会とアート関係から始まり、障害がある人たちだけでなく人間にとって表現すること、コミュニケーションすることの意味を問いかける内容になりました。
三つのトークすべてを目撃した理事が寄稿くださいました。
アール・ド・ヴィーヴル展「響きあうアート」で行われた3つのトークは、同じ場所から語られた内容であることにびっくりするほどのふれ幅と深さの語りで、あっという間の半日でした。
1つ目のクローズでのトークでは、「この先」に向けたアールメンバーの不安に寄り添うとても大切な時間になったと感じました。
Mさんというアールを卒業しつつ今もアールと関わりを持ち続けている実在とともに、アールの10年を皆で写真で振り返るという設計も意味深く感じました。
メンバー皆のなかにあるアールとの歴史と、萩原理事長や中津川アートディレクター、Mさんたちの歴史が結びついたことでの一体感が生まれたからこそ、本音を話せる安心な場にもつながっていたのだろうなと思いました。
施設から就職していく道筋や、就労後の葛藤について、メンバーの心からの質問に、Mさんがまっすぐ応えていた姿が印象的でした。
二つ目のトークイベントは、「響きあうアート」と連動し、同一会場内で展開された公式コラボレーション展「静かな関与 — Invisible Narratives」の関連企画としてArtFandersさんの主催で開催されたものです。
コラボレーション1【タカクラカズキ×鈴木悠太×天野優斗】
アール・ド・ヴィーヴル作家の絵画世界に登場するキャラクターや物語を、ゲーム的空間へと展開。鑑賞者がその内部に入り込み、身体的に体験できる環境として再構成します。平面作品の中に潜んでいた物語は、デジタル空間の中で拡張され、参加可能な世界へと変換されます。
コラボレーション2【平山匠×待寺優】
作品に内在する「友人」「ライバル」といった関係性の構造を彫刻として立体化。言葉にされない感情や距離感を、物質として空間に定着させます。目に見えなかった関係性は、彫刻作品を通じて空間の中で静かに可視化されます。
コラボレーション3【ArtFanders「egoGraphica」×アンゲルス】
作家アンゲルスの脳内に広がる独自の物語世界を、AI技術と対話設計によって外部化する試み。彼との継続的な対話を通じて、物語に登場する人物や出来事、象徴的モチーフをAIが学習し、鑑賞者とのオープンな対話へと接続します。生成され続ける物語の内部に静かに関与するための実験です。
公式コラボレーション展「静かな関与 — Invisible Narratives」リリース記事より
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000169208.html
三人の若手アーティストの観点やスタンスが、プロジェクトを通じて、アールの価値に触れ響き合うことで成り立つコラボレーションのプロセスが垣間見え、大変興味深い対話でした。
平山匠さんは、ご自身のこれまでの人生が今回のコラボレーションの原点であること、アール・ド・ヴィーヴルのカフェで待寺さんが取り組んでいるダンスの話、好きな食べ物やTV番組などについてともに語った時間の楽しさなどを語られた後、
「コラボレーションの相手の世界だけを引き受けるやり方は違うと思っていて。自分の世界を消さずに両方を大切にしたい」とおっしゃったのが印象的でした。
二つの世界観が絶妙なバランスで響き合う時、コラボレーションは新たな地平を拓くのだろうと思えました。
タカクラカズキさんは、鈴木悠太さんや天野優斗さんの作品に、《お寿司》《浅草》などのローカルな世界観が滲み出し、自身の世界観や好きなものが全部表れていること、そして、サブカルチャーとの同時代性について言及されました。
お二人の言葉からは、コラボした作者、作品への、同時代のアーティストしてのフラットな感情、心からのリスペクトが滲み出ていました。
お二人の話を受け、中津川アートディレクターは、
「現代アーティストのお2人が、自らの作品の好みにシンクロする作家にコラボをオファーするという今回の方法は、アーティスト自身と作品との密な結びつきを生み出し、それが作品の面白さにも直結したと感じます。キュレーションとは全く違う手法。ちょっと羨ましい気持ちも(笑)」と。
始まる前の予測不可能な状態、そこから生まれた面白さ。
新しいドアが開きそうな予感を感じた、と語りました。
吉田理穂さんも加わり、現代美術に存在する閉塞感や違和感、(明るいとダサい、思い悩んでいないとダメ、楽しそうだと賢くないと言った見方)、さまざまな課題認識が提示されたあと、
中津川アートディレクターから
「デュビュッフェの功績はアートの定義を疑う示唆を与えたこと」
「障害者アートを資本主義だけでみても福祉だけの視野で進めても本当の価値を伝えていくことが難しい。福祉のあり方やアートの意味合いへの捉え方もアップデートしていく必要がある」
「変化を生むためには、自分たちの世界の外側にいる多様な仲間との関わりが必要」
というメッセージが。
対話を続ける登壇者のまなざしの真摯さが印象的でした。
三つ目のトークでは、法人化して10周年を迎えたアールが、その節目にとしてこれまでの歩みをふりかえり、今後に向けた価値を会場全体で共有し合う、胸が熱くなる時間でした。
冒頭はアールのルーツに遡ります。
萩原理事長自身がダウン症の子を授かった当時の不安、その後つながった地域のダウン症児の親子の集いの場を訪れた時に「大丈夫だ、私はやっていける。一人ではないんだから」と思えた心の内。障害を理由に実現しなかった子ども達の夢を皆で実現していったこと、成長に伴って、子どもたちの可能性を広げ、将来に希望を感じる就労の場として施設を立上げたこと。「それらが実現できたのは、活動でつながった地域の仲間がいたから」(萩原理事長)。
「どうしたらできるのか、を考える前に動き出していた。それが萩原さんたち。」と加藤市長が言葉を重ねました。
アールの特徴について、田口ランディさんが「アールみたいに地域の応援団が大勢いるところを私は知らない。企業との関係においても、上下の関係になりがちなのにアールでは対等な関係を築けているのはどうして?」と踏み込んだ問いを投げかけると、萩原理事長は「私たちは『障害者が作ったものが価値が低い』とは思っていません。なのであくまで関係がフェアかどうかを基準に協力するかどうかを決定し、フェアな関係ではない依頼は引き受けないこともありました。」と笑顔でキッパリと答えました。
そのような対等な関係性は、両者が引き合って作られていくものです。アールの場合、その根っこにアート(表現)の感動がもたらす出会いがあり、それが対等な関係の形成に作用しているのだろうと、階下の作品を思い出しながら考えました
他にも、アールの主幹をなす事業である「アートリース事業」で出会った小田原を拠点とするサンネット株式会社の取組も印象的でした。
アールのメンバーが絵の交換に訪れる中で関わりが深まり、市川社長は、システム会社の使命として、事務仕事に携わる自閉症の方の特性を考慮したプログラム「SICS」を開発するに至った、という話に、会場は沸き立ちました。
「絵は言葉にならない気持ちを解放する側面があると思う。つまりアートは癒やしであり治療。」と語るランディさんの言葉に呼応し、中津川アートディレクターは「アートは人と人を不足で結びつかせる。表現することで同じモヤモヤを抱える他者を救うことがある。その意味で表現することは社会貢献活動とも言えるように思います」と語りました。
「アートには人が持っているものを解き放つ力があり解決策のひらめきにつながることもある。アートや文化はまちづくりにとって重要」
加藤市長の力強いコメントで締めくくられたのちも、会場からの質疑やメッセージが続き、いつまでも熱気が消えない会場でした。
(原稿提供:渡真利 紘一理事)
