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大阪・関西万博「BiG-i Art Project Spread Our Common Sense(共通感覚を拡げて)レポート」

2025.10.21
お知らせ

 

 2025年6月、大阪・関西万博の夢洲会場で「BiG-i Art Project Spread Our Common Sense(共通感覚を拡げて)」が開催されました。会場に足を運ばれた賛助会員で記者・映画監督の上垣喜寛(うえがきよしひろ)さんが記事を寄せてくださいました。




大阪・関西万博の夢洲会場で開催された「BiG-i Art Project Spread Our Common Sense(共通感覚を拡げて)」このプロジェクトは、障害のある人たちの多様な表現活動を紹介することを目的に、複数の展示やイベントで構成されたものです。

 そのうちのひとつ「about me special」では、全国の8つの福祉施設で生まれた作品が紹介され、アール・ド・ヴィーヴルからも奥津大希さんと塚本愛実さんの2名が出展。作品とともに、制作の背景や施設の日常の様子が紹介されました。

 

 

 

 展覧会のキュレーションを担当したのは、美術家でアートディレクターの中津川浩章さんです。

 

中津川さんらが2017年から取り組んできた「about me~“わたし”を知って~」シリーズは、作品を単に飾るのではなく、作家や支援者、福祉施設、地域に流れる時間までを含めて紹介する試みを続けてきました。今回の「about me special」もその延長線上にあり、「障害のある人たちの表現を軸にして、その人個人の人生を、また社会や福祉の在り方まで、多角的な視点で浮かび上がらせようとする」という狙いのもとで企画されました。

 実際に会場を歩いてみると、白を基調とした空間に絵画や立体作品が並べられ、その脇には支援者のメッセージが書かれたパネルや創作の現場の写真や映像が添えられていました。

 作品を見て、説明を読んで、また作品に戻る――。この繰り返しをしていくうちに、作品と観覧者とのあいだに、目には見えない対話が生まれてきます。たとえば、奥津さんのコーナー。色彩豊かな作品が目に入り、そのあと支援員の説明を見ると「奥津さんの制作は、脳内BGMを決めることから始まります」と紹介されています。頭の中で好きな曲を流しながら原案を描き進めるという彼のスタイルを知ってから作品を見直すと、「いったいこの絵を描くときは何を流していたのだろう」という好奇心が湧き、不思議と絵画に音楽性が帯び、音が聴こえてくるような錯覚に陥ります。

 一方で、塚本さんのフィギュア作品に添えられた説明を読むと、幼い頃から“モチモチ”とした感触を好み、粘土の感触を楽しみながら造形してきたことがわかります。その言葉を読むと、作品を見る目にも自然と触覚が働き、粘土のやわらかさや指先に残る温度までもが想像されます。

 奥津さんの作品が「音」を呼び起こすとすれば、塚本さんの作品は「手の感覚」を通して世界を伝えてくる。さらにこの両者の創作拠点であるアール・ド・ヴィーヴルの日常も紹介され、支援員との関係性も感じられる。この展覧会が、視覚だけでなく五感で感じる場所であることを実感できます。

 「言葉」が持っている力は計り知れません。しかし、言葉でのコミュニケーションが制限されている人たちもいます。トークイベントに登壇したロジャー・マクドナルドさんは重症心身障害のある方々を受け入れている大阪府の「四天王寺和らぎ苑」の作品を見た衝撃をこう語ります。「何時間もかけて筆を次から次へと動かしていく。その衝動と欲求が感じられて…。まいりましたね」

 

 中津川さんからは、同施設では言葉以外の表現が生まれているという解説があり、描く過程で眼球のわずかな動きが見られたことを喜ぶ支援員の姿も紹介されました。

「アートの領域を超えて、人間のコミュニケーションに至っていくんです」と語るエピソードが印象的でした。

 表現することで生きている人たちがいる。その姿を通して、表現することの意味や、人が何かをつくることで生まれる豊かさを、来場者それぞれが受け取ったのかもしれません。

 中津川さんはこう語ります。

「アートも福祉も、特別な人だけのものではありません。人間が人間らしく生きるために、誰にとっても必要不可欠な営みです。」

 その言葉のとおり、会場には生きることと表現することが重なり合う風景が広がっていました。


筆者:上垣喜寛(うえがきよしひろ)
1983年生まれ。記者・映画監督。早稲田大学教育学部卒業。2008年から編集記者として活動。2014年特定非営利活動法人自伐(じばつ)型林業推進協会設立・現事務局長。著者に「自伐型林業ー小さな林業の今とこれから」(2025/世界書院)等。映画「壊れゆく森から、持続する森へ」(2022年/PARC)監修。アール・ド・ヴィーヴル賛助会員

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